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第2章 コーヒーの需要と供給、日本市場の特質②|世界第4位 日本のコーヒー市場の変遷と特質 ~輸入と消費~

世界第4位の市場規模を誇る日本のコーヒー市場は、世界でも例を見ない市場の特質と消費者嗜好があります。本稿では日本のコーヒー市場に着目し、細部にわたる市場分析から、日本のコーヒー市場の特質と特有な消費者志向を四章構成のレポート形式でお伝えしていきます。 

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yusuke-k.hatenablog.jp

 

コーヒーの需要と供給  (2-3)

 

主要輸入国の需要と供給  (2-3-1)

表7 各コクの生豆輸入量・自国消費量・再輸出比率の比較
表7  各国の生豆輸入量・自国消費率・再輸出比率の比較
生豆輸入量(1,000俵) 自国消費率(%) 再輸出比率(%)
1 U.S 26,088 1 キプロス 99 1 ベルギー 81.6
2 ドイツ 20,926 2 ノルウェー 99 2 ハンガリー 77.5
3 イタリア 8,362 3 ルーマニア 95 3 スロバキア 73.5
4 日本 7,544 4 スロベニア 93 4 ドイツ 60.2
5 フランス 6,991 5 日本 93 5 スイス 57
6 ベルギー 5,828 6 ギリシャ 89 6 オランダ 48.5
7 スペイン 4,821 7 フランス 85 7 ポーランド 46.7
8 イギリス 4,183 8 アイルランド 85.2 8 イタリア 35.2
9 ポーランド 3,397 9 フィンランド 84.9 9 スペイン 34.4
10 オランダ 2,775 10 U.S 84.5 10 ルクセンブルク 34.3
11 スイス 2,498 11 ポルトガル 82.6 11 スウェーデン 31.6
12 スウェーデン 1,647 12 デンマーク 80.6 12 イギリス 28.7
13 オーストリア 1,452 13 オーストリア 76.9 13 オーストリア 25.1
14 フィンランド 1,287 14 イギリス 69.9 14 ポルトガル 20.7
15 ギリシャ 1,155 15 スウェーデン 68.3 15 アイルランド 17.6
16 ポルトガル 1,030 16 イタリア 68 16 スロベニア 16.1
17 デンマーク 945 17 ルクセンブルク 65.7 17 フランス 14.6
18 ルーマニア 844 18 スペイン 65.3 18 ギリシャ 14.5
19 ノルウェー 795 19 ポーランド 59.9 19 U.S 13
20 スロバキア 777 20 スロバキア 49.9 20 フィンランド 12.1
21 ハンガリー 640 21 ドイツ 45.2 21 デンマーク 11.9
22 ルクセンブルク 324 22 スイス 41.4 22 ルーマニア 6.4
23 スロベニア 223 23 オランダ 32.8 23 ノルウェー 1.5
24 アイルランド 210 24 ハンガリー 28.1 24 キプロス 1.2
25 キプロス 82 25 ベルギー 16 25 日本 0.9
(注)再輸出は生豆の他に、焙煎豆とインスタントコーヒーを含む。
資料)ICO統計をもとに作成

上の表7は各輸入国の自国消費率と再輸出率を示したものである。これから分かるように、輸入された生豆は自国で消費されるというわけではなく、生産国から一度輸入してまた他国へ輸出する再輸出を行っている国が多くあることが分かる。

我が国日本はアメリカとフランスと同じように自国消費率が高い国である。そして、ドイツやイタリアは、自国消費率が低く再輸出量が高い。コーヒーの主要消費国は主に北半球の国々とされている。その中で、大半の国々はE.U圏であることが、以前に示した表3から分かる。コーヒーの消費がE.Uに集中することから再輸出も盛んにさせていると考えられる。

次の図8では、E.U主要国の輸入量、自国消費量、再輸出量を示した図である。

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図8 E.U主要国の輸入量、消費量、再輸出量(2011年)

 

ドイツとベルギーは生豆輸出量が国内での消費量を上回っていることが分かる。ドイツはE.Uで一番大きなマーケットを形成しており、E.Uのコーヒー市場を約23%シェアしている。コーヒーに関る産業も発展しており、生豆に限らず国内で焙煎され製品化したものなども再輸出しているため、特に再輸出量ではE.U全体の約3割を占めとても大きなものとなっている。再輸出の相手国はポーランド、米国、隣国が主である。またベルギーもドイツと似たようなマーケットを形成しており、輸入量における再輸出量の割合はドイツよりもはるかに大きい。  

E.Uは他の地域には無い、コミュニティーを形成しており、それぞれの国がそれぞれの役割を果たし、お互いに良い関係を築いているかのように思える。また、特に生豆を再輸出することに関しては、輸入する国にとっては生産国から輸入するよりも輸送距離などの面からコストがかからずに仕入れることが出来るので、かなりの利点があるのではないだろうか。

各国の特徴として、以下のように示した。(以下、オランダ外務省CBI HPをもとに作成)

 

ドイツ

輸入と消費では世界ではアメリカに次ぐ2位となっている。E.Uのコーヒー市場では23%(2010年)シェアしており1番大きいマーケットを持っている。また、加工業が発達しておりE.Uでは1番大きな加工品輸出国となっている。生豆の再輸出量でもE.Uで1位となっており、その量は輸入した生豆の約30%とされている。加工品輸出先と生豆再輸出先は主にE.U域内となっており、E.Uでは欠かせない存在となっている。

 

フランス

E.Uで3番目に大きいコーヒー市場で14%シェアしている。加工品においてはE.U最大の輸入量でE.U総輸入の19%に及ぶことがフランスの大きな特徴として挙げられる。主要輸入先は生豆生産国である発展途上国ではなく、ドイツやベルギーなどのE.U域内から輸入される。

 

ベルギー

E.Uにおいて、生豆輸入量3位、生豆再輸出量2位となっている。輸入される生豆の約70%がオランダやフランスへ再輸出される。再輸出量が多い分、国内における消費はかなり低いことがベルギーの特徴である。

 

イタリア

輸入量、消費量、加工品輸出量がどれもE.Uで2位となっている。ドイツのように国内の加工産業が発達している。生豆輸入のうちの約23%が加工品となってドイツやフランスなどに輸出される。この量はE.U総輸出の19%を占める。

 

スペイン

E.Uで4番目に大きいコーヒー市場を持つ。生豆輸入量もEU4番目となっている。生豆の再輸出量では3位となっており、生豆輸入の11%がスイス、ポルトガル、イギリスなどに再輸出されている。 

 

 日本のコーヒーの需要と供給  (2-3-2)

 日本のコーヒー需要は家庭用、業務用、工業用の3つに分かれる。家庭用には袋入りや缶入りで販売され、家庭で飲用されるもの。業務用はレストランやカフェ・喫茶店向けのもの。工業用は缶コーヒーやリキッドコーヒーに利用されるもの。

また商品の形態として、レギュラーコーヒー、インスタントコーヒーにも分かれる。レギュラーコーヒーは一般的に豆を焙煎後に粉砕されて販売されているものとされていないものがある。インスタントコーヒーは、豆から成分を抽出後、フリーズドライ製法やスプレードライ製法により長期間の保存を可能にし、簡便になったもの。

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図9 農園から最終消費者までの経路

 

表8 日本のコーヒーの需給表

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図10 国内需給グラフ


日本の需給表を前の表8と図10に示した。レギュラーコーヒーの消費量が、インスタントコーヒーよりも圧倒的に多いことが分かる。特にレギュラーコーヒーの消費量は、生豆換算で見ると近年の2013年が過去最高の消費量となっている。他にも供給計と消費計でも、現在が過去最高である。  

インスタントコーヒーの方が手軽に飲めるにも関わらず、レギュラーコーヒーよりも需要が少ないことが大きな特徴といえる。レギュラーコーヒーの需要が多い要因は次の第3章の(2)のところで述べるとする。

 

コーヒーの製品カテゴリー  (2-4)

 製品のカテゴリーと製造工程を以下に示した。

レギュラーコーヒー(RC)

 焙煎したコーヒー豆や粉砕したコーヒー粉をいう。 国内市場でRCは産地名の単品からブレンドしたものまで販売されている。世界で1番種類が多く、且つ包装形態も多様であるため、600種類以上の商品が存在するとされている。 日本のRCは、国際的に比較すると種類が多く鮮度管理費も高いためにRC価格は高い。欧米では少ない種類を大量に生産するという方法を。日本では、種類が多く消費者はフレッシュなものを求める傾向が強いため賞味期限以内でも処分しなければない。

 インスタントコーヒー(IC)

 発明者は日本人化学者 加藤博士である。1901年にアメリカのニューヨーク州バッファローで開催されたパンアメリカン博覧会にSoluble Coffee(可溶性のコーヒー)として出品したのが最初である。しかし、特許を取ったのはアメリカ人のG・ワシントンであった。 ICはブラジルのコーヒー過剰生産が問題となったのをきっかけに、1939年にスイスのネスレ社が量産化に成功している。 一方、日本では昭和17年に海軍の要請で国産化したが、一般消費者には普及しなかった。しかし、戦後に食生活の欧米化や占領国からの食料援助が小麦だったため、パンの普及がコーヒーの消費拡大に結び付いている。  製造方法は、コーヒー液の抽出まではRCまでと全く同じである。ICは抽出後はその液を遠心分離し小さなコーヒー豆のカスなどを取り除き濃縮する。その後、噴霧乾燥法(スプレードライ製法)と凍結乾燥法(フリーズドライ製法)の2つの方法に分かれる。最後に包装工程を経て製品となる。

リキッドコーヒー

缶やボトルの容器に入っており、どこへでも持ち運びができる液体コーヒーをいう。 日本で開発された製品である。欧米では冷たいコーヒーを飲む習慣がない。日本では業務用、家庭用に並ぶ第3の市場である工業用市場。最初の製品は、戦前から販売されている牛乳瓶に入ったコーヒー牛乳に用いられた。その後、1969年にはUCC上島珈琲(株)が缶コーヒーを販売し、市場を大きく展開することになる。缶コーヒー市場では更に、自動販売機が普及するに連れて需要が拡大し、冬でも飲めるようホットで発売すると更に需要が増加した。  

 エキス類調製品

日本独自の輸入商品でリキッドコーヒーの原材料として開発されたものである。関税分類として加糖調製品と無糖調製品に分けられる。前者の加糖調製品はICに砂糖が混入したものである。開発された当時は砂糖の輸入関税を安く抑えるために、ブラジルなどの生産国で製造し輸入していた。無糖調整品は砂糖が入っていない濃縮液で、品質が加糖調製品よりも優れており輸入数量は年々増加。加工用原料として定着している。 

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図11は製造工程を示したものである。選別から粉砕まではどの製品も同じである。レギュラーコーヒーは製造工程が最も少ない。インスタントコーヒーは抽出後遠心分離理を行い、不純物を取り除く。乾燥方法はフリーズドライ製法とスプレードライ製法の2種に分かれる。この製法によりコーヒー抽出液を個体にさせ製品とさせる。缶やボトルコーヒーは抽出後、無糖、微糖、ミルク入りなどの最終製品に合わせた調合を行い包装後製品となる。

 

 

 

日本のコーヒー市場の特質  (2-5)

嗜好飲料とコーヒー  (2-5-1)

 

表9 嗜好飲料類の生産実績                単位:t
名目 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
緑茶 緑茶 114,100 101,500 102,065 101,125 89,907 88,674 87,106 91,022 89,000
ウーロン茶 17,000 16,500 17,500 16,100 14,900 15,100 14,660 14,150 14,000
麦茶 43,300 41,000 47,850 51,670 50,130 54,000 54,150 52,500 53,500
紅茶 紅茶 15,800 16,650 16,950 17,450 17,600 18,870 19,060 18,090 17,350
IT 7,010 7,070 7,300 7,600 8,800 10,440 11,380 12,000 13,800
22,810 23,720 24,250 25,450 26,400 29,310 30,440 30,090 31,150
コーヒー IC 41,800 43,000 40,500 41,200 41,000 43,000 43,200 45,000 46,000
RC 141,000 144,000 146,000 151,000 147,000 145,400 149,500 141,900 151,000
工業用コーヒー 98,000 100,000 103,000 103,000 103,000 101,600 102,600 102,600 102,800
280,800 287,000 289,500 288,900 291,000 299,600 295,300 296,600 299,800
ココア 22,350 21,100 20,390 19,990 19,960 20,010 20,140 20,180 20,980
合計 500,360 490,820 501,555 509,135 492,297 506,694 501,796 504,542 508,430
注:ITとはティーパック製品等のインスタントティーを指す。
資料)日刊経済通信社調をもとに作成

 

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2005年からの統計実績によれば、嗜好飲料類の総生産実績は50万t前後で、金額でいえば92億円~94億円の規模を保っており大きな変動がなく安定的である。2008年のリーマンショックによる金融恐慌や、2011年の震災の影響は嗜好飲料類全体の値から見れば大きな影響は無いとされている。

茶類で見ると、緑茶とインスタントティーが大きく変動している。緑茶は2005年をピークに年々減少が続いている。2005年には11.4万tだったのが、近年の2012では9.1万t、2013年見込みではさらに落ち8.9万tと推定されている。緑茶は2011年の震災の風評被害も受けたこともあり、2005年からの落ち込みは更に加速した。一方で、表9から、IT(インスタントティー)の生産が好調で、2005年から2013年見込みまで落ち込むことなく順調に上昇し続けている。

嗜好飲料全体のうちコーヒーの合計は約50%を占め、レギュラーコーヒーだけでは全体の約30%を占めており、他の品目と比較すると非常に高い生産量となっている。レギュラーコーヒーの生産量のピークは2010年の15.5万tで金額は28.6億円である。しかし、同年の末からの原料豆価格が高騰し翌年、翌々年の数字は落ち込んでいる。2012年に価格高騰は治まったため、2013年見込みは15万t超と推定されている。

 

レギュラーコーヒーの製品形態別の需要   (2-5-2)

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1960年にコーヒー生豆が自由化されて以降、今日まで生産量と販売金額が共に増加し続けている。当初は缶詰のレギュラーコーヒーや真空フィルム包装の形態であり、量販店などで販売されることで家庭用レギュラーコーヒーは普及していった。1969年に缶コーヒーが誕生し、1970年代の後半からその原料となる工業用のレギュラーコーヒーも増え始めた。これら2つが生産量と販売金額を急増化させる大きな要因となる。  

1970年から近年の2012年までを見ると、家庭用と工業用が大きく増加し続けている。工業用では、1975年まで全体の1割にも満たしていなかったが1980年以降急増化し、缶コーヒーやボトルコーヒーの普及の影響もあって1995年に業務用と家庭用を超える生産量となる。2012年まで減少することなく伸び続けてきた。ピークは2010年で総生産量247,000t、売上げ金額32億3,300万円である。業務用は大きな変化を見せることのない生産量となっている。1990年でピークとなり以降、急激な変化を見せることがなくほぼ横ばいである。

家庭用コーヒーは、近年では工業用コーヒーには生産量が劣るが、現在まで工業用コーヒーと同じく生産量が増加し続けており、また様々な製品形態や消費者志向の変化などもあって非常に興味深い市場となっている。

3章ではこの家庭用コーヒー市場に焦点を当てて細分化していき市場の特質について見ていく。

 

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